個人がM&Aで事業承継することはできる?

中小企業庁によりますと2012年から2017年の間に中小企業におけるM&A制約件数は約3倍となり、M&Aの実施件数も増加傾向にあるといいます。M&Aとは、会社が会社を買収し、買収先の事業を継承するという方法が一般的な方法です。
しかし、中には、それまで他の会社にお勤めをしていたサラリーマンが会社を買収し、次の日から社長にといった事例もあります。
このように、個人がM&Aで会社を買収したり、事業承継をしたりすることは、どういった場合に可能になるのでしょうか。また、どうすれば個人のM&Aを成功させることができるでしょうか。
今回は、個人M&Aを検討している方に向けて、個人M&Aにおける様々な疑問について解説していきます。
目次
個人M&Aは可能なのか
そもそも、サラリーマンなどの個人がM&Aで会社を買収したり事業を承継したりすることは可能なのかという点ですが、個人がM&Aで事業買収を行い、新たなビジネスを始めることは可能です。
実際に、老後に不安を抱くサラリーマンたちがM&A情報サイトなどで後継者不足に悩んでいる中小企業を探し、買収に乗り出すケースは増加傾向にあり、注目を集めているといいます。
更に、飲食店や小売店、中小企業の売買にとどまらず、インターネットが普及したことで、ECサイトやアフィリエイトサイトを個人が副業で運営していたサイトを法人化し、インターネットサービスを売買する事例も増加してきています。というのも、売り上げが出てくると事業としては法人化したほうが社会的信用は得られるものの、副業として続けることが難しくなってしまうからです。
こうしたサイトであれば、インターネットサイトでやり取りができるサービスなどもあり、中小企業や飲食、小売店などの買収と比べて、個人が買いやすい事業とされています。
また、特にこの事業や業種は個人は買うことができないなどといった条件はなく、買収金額を用意できれば、サラリーマンなどの個人でもM&Aで事業を買収することができます。
個人M&Aが増えている理由
前述に、個人のM&Aは増加傾向にあるとご説明いたしました。実施件数も増えていることから、ますます注目を集めている個人M&Aですが、なぜ、個人M&Aが増加してきているのでしょう。
ここからは、個人M&Aが増えてきている背景について解説いたします。
後継者不足に悩んでいる企業が増えている
まずは、後継者不足に悩んでいる企業が非常に多いという理由です。実際に、日本の中小企業の廃業理由は『後継者不足』が約8割を占めているとされています。更にその約半分は黒字の企業です。また、仮に経営者自身の子供や従業員に後継者候補がいたとしても、引き継ぐ能力がないなどの理由から後継ぎできないといった場合ももちろんあります。
そもそも従来までM&Aは、経営状況が悪化し自社を存続させることが難しくなった企業が、他の企業に自社を売ることで撤退時の損失を小さくするする目的で行われていました。つまりは、『会社の売買』は大企業同士であり、なおかつ資金力のある会社が買収するという認識が強かったのです。
しかし、近年では、後継者不足に悩んだ企業が後継者探しとしてM&Aを選択するケースが増えています。国内の大半の企業が中小企業である日本にとっては、売却額が少額であったとしても後継ぎを探したいという中小企業や、後継ぎをする人のいない事業の一部を売却したいという企業も増えていることから、個人でも手の出せる市場になってきているということです。
個人の資産確保のため
人生100年時代と言われている現代、老後の資産に不安を抱くサラリーマンは少なくありません。そこで、M&Aで事業を買収し、老後の資産を確保する動きが増加しています。
企業の中には60から65歳で定年退職となる企業も少なくなく、終身雇用という雇用形態も形骸化が進んでいます。日本の会社の人生が100年であるとすれば、60歳で定年退職をしたとして残りの40年は年金と貯蓄で生活をしなければならなくなります。
しかし、金融審議会市場ワーキング・グループによる令和元年度の『高齢社会における資産形成・管理調査』 では、60代の貯蓄額の平均は2000万円との結果になりました。
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
もちろん生活スタイルによって変わってきますが、例えば一般的な60代の無職の夫婦が2人で生活するには、20~30年でおよそ2000万円を取崩さなければならないと言います。
つまり、仮に100歳まで生きるとすれば、年金などの収入を加味しても退職した60歳から残り40年間で、平均貯蓄額の倍である約4000万円が生活資金として必要になるというわけです。
そのような将来事情を考え、40から50代くらいのうちに個人M&Aで事業を買収し、オーナー社長として働きながら老後のために貯蓄をしていくといった計画をするサラリーマンが増えているということです。
個人でも買える会社とは
個人でもM&Aが実施できるとはいえ、当然企業の資金力よりは劣る可能性のほうが高いですから、買収資金をたくさん用意できるわけではないケースが殆どです。個人のサラリーマンが会社を買収するのに使える金額というと、大体100万円から500万円程ではないでしょうか。
家族がいなければもう少し出せるといった方もいらっしゃるかもしれませんが、売却額が500万円以下であることが多い業種は以下の通りです。
・個人の飲食店や小売店、美容室
・エステサロン
・塾や予備校
・フランチャイズ店
・調剤薬局、個人医院
・製造業、印刷業
・空調や水道の整備業
・Webサイト、ECサイト事業
・デイサービスや訪問介護事業
・旅館や簡易宿泊施設等
・YouTubeなどの動画ビジネス
上記が比較的小規模事業が個人でも買える値段で売却案件が出ている場合が多いと言えます。特に最近ではWebサイトや動画サイトの売買も増えてきているので、ネットビジネスに参入したいという方は新規で立ち上げるよりも比較的スピーディーに顧客を獲得することができるでしょう。
ただ、小規模店舗であればすべての企業が個人でも手の届く範囲で買収できる会社であるということではありませんので、まずは、個人が会社を買う際に『自分がM&Aにどのくらいの予算を使うことができるのか』という点を認識しておくことが大切です。また、予算を決めるにはある程度自分が買収したい企業の業種のM&Aの相場を確認しておくと良いかもしれません。
個人M&Aを行うメリット
企業同士だけでなく、個人がM&Aを行うことのメリットは下記のような事項があげられます。
設備や人材を1からそろえる必要がない
M&Aの手法はどのような手法を選択するのか、そしてどのような業種を買収するのかによって変わってくる部分はありますが、設備や人材を1からそろえる必要がないという点がメリットとしてあげられます。
というのも、必要な設備をそろえるのに時間や費用的コストが多くかかるのはもちろん、当然人材が必要であれば採用したり、教育したりするのにもコストがかかります。その点M&Aを実施すれば手法や契約条件によってはそのまま人材や設備を引き継ぐことができる場合がありますので、1からそろえる必要がありません。
今後の見通しが立てやすい
また、従業員や顧客、取引先などをそのまま買収元の企業から引き継ぐことができれば、自身で開拓していく必要がないうえにある程度企業同士の関係性が出来上がっている場合が殆どなので、今後の見通しが立てやすいというメリットもあります。
許認可が必要なビジネスに参入できる
会社の設立において、下記のような特定の事業を行う場合は許認可を取得しなければなりません。許認可は都道府県などの行政機関から取得しなければならないもので、業種によって許認可を取得しやすい業種もあれば簡単に許認可が取得できない事業もあります。
その点M&Aを実施して許認可を引き継ぐことができれば、許認可が必要なビジネスに早期参入することができるようになります。
経営者として働くことができる
近年では、サラリーマンとして働きながら『起業したい』と夢見ている人も少なくありません。起業したいけど、なかなかアイディアが無い、また実際1から作り出すことができるのかという怖さなどもあるでしょう。
その点、M&Aで会社を買うことで会社を買うことができ、経営者として働くことができるようになります。後述にて、ゼロから起業することと個人M&Aでの起業の違いについて解説いたします。
個人M&Aでの起業とゼロから起業することの違い
前述にもあるように、キャリアアッププランの1つとして起業を夢見ているサラリーマンは少なくありません。会社を買わずとも自分で起業すればいいのではと感じる方もいらっしゃるでしょう。
ただ、起業してから5年後に残っている会社の割合は15%程度と非常に低く、せっかく1から起業しても生き残っていくというのが難しい可能性もあるのです。逆にM&Aではリスクが一切ないのかと言われれば決してそうではなく、顧客や従業員が離れていったり、債務が後から見つかってしまったりして続けられる状況になくなってしまう場合もあります。
ここからは個人M&Aでの起業とゼロから起業することの違いを解説しながらそれぞれを比べた場合のメリット・デメリットについても解説していきます。
M&Aでは製品やサービスがある程度市場に受け入れられている
起業して1年足らずで廃業してしまう会社の特徴は『会社のサービスの需要が想定していたよりも少なかった』という理由での廃業が多いことです。
当然、モノが売れなければ会社は儲かりません。その点、M&Aで会社を買う場合はある程度市場から需要があり、受け入れられているサービスを扱っている会社を選ぶことで、『サービス内容と需要のミスマッチ』で廃業に至ることはほぼないでしょう。ただ、M&Aでは安定が得られるものの、新しいビジネス領域に参入して、逆に大成功を収めるということはできないかもしれません。
もともとあるモノをもっと伸ばしていくのが得意な人はM&Aでの起業、ゼロから自身のアイディアとオリジナリティで会社を作っていきたいという創造性のある方はゼロからの企業が向いてると言えるのではないでしょうか。
M&Aで黒字企業を買うと買った直後から利益がある
ゼロから起業をするとすれば、当然当初は採算も合わず、会社を存続させるので精いっぱいになるかもしれません。その点、M&Aで黒字の企業を買収すれば、会社を買った直後から利益を見込むことができます。M&Aは将来的な利益も含めた会社の資産を買うことになるので、黒字の企業は赤字の企業よりも売却額が大きくなる可能性もありますが、見込んだ通りの利益を得ることができれば、早期に買収額を回収することができる可能性もあるでしょう。
M&Aでは『創り出す』ということが必要ない?
M&Aは今ある企業をお金を出して買うことですから、個人が会社を買えばその会社を前に進めるためにどうすればよいのかということを考え、成長戦略を検討していくということが基本的な使命です。ゼロから起業するときのように、考えて悩んでアイディアをふり絞りながら創造していくということが必要ない可能性もあるので、創造し、作り上げることに意義を感じるという方にはM&Aは向いていないでしょう。
いわゆるお金を出して、従業員を教育するための時間やこれまで作り上げてきた会社の資産を買うということになるので、M&Aはゼロから起業するよりは『楽な方法である』ともいえるかもしれません。
個人が事業承継する際の注意点
企業の後継者不足問題や、個人のM&A需要の高まりなどが相まって、個人M&Aが増加してきているものの、『M&A経験企業にみるM&A実態調査』によりますとそもそも小規模事業者のM&Aの成功率が3~5割程度とあり、不安点も残ります。
とはいえ、個人が買収する企業で現実的なのは、やはり中小企業などの小規模事業者であると考えられますので、ここからは個人がM&Aで事業承継する場合に注意しておきたい点をいくつか解説いたします。
M&Aの方法によってはリスクがある場合も
一般的に個人M&Aにおける主な買収方法は、下記の2種類に分かれます。
①株式譲渡:会社ごと買い取る方法
②事業譲渡:会社の中の一部の事業を買い取る方法
株式譲渡では、会社の中の契約関係や債務などまで引き継ぐことになり、取引の時点では分からなかった部分が後になって出てくると、トラブルが発生してしまう可能性があります。
特に株価の高いタイミングで買収できた企業などであれば、取り急ぎ資金を調達できると考えがちですが、上記のようなリスクも考えられますので、安易に株式譲渡で利益を得ようとするのはおすすめできません。
一方会社の一部の事業を買収する事業譲渡では、従業員や顧客をすべて継承できない場合があるといったリスクがあります。会社の保有者自体が買い手に変更される株式譲渡では、顧客や従業員もそのまま譲渡されますのでそれらの契約関係に影響があることはないのですが、事業譲渡の場合は一部を継承する形となりますので、買い手が一から顧客や従業員を集めなければなりません。
買い手の資金も必要
当然ですが、会社を買収するにはそれなりの買収額が発生します。買収先との契約によっては、分割か一括かなどが変わってくるかと思いますが、最低でも小規模事業などの事業譲渡でも300万円から1000万円程の資金が必要になってきます。
また、買収する際の資金だけでなく、買収後にも支払わなければならないお金があります。
『のれん代』といって、買収先の企業や事業が保有する純資産を上回る金額で買収した場合に発生するもので、これは一定期間毎年発生し続ける可能性がありますので、当面の資金繰りも考えておかなければなりません。
個人がM&Aを成功させる方法
このように、個人M&Aを行うにあたって、メリットと同じくらいに注意する点やリスク等も挙げられます。
しかし、個人がM&Aに成功できれば、成功した次の日から社長として働くことができる上に、将来も安定したものになるでしょう。ここからは、個人がM&Aを成功させるための方法について解説いたします。
専門家への相談が必須
先ほども解説したように、M&Aの方法によっては思わぬリスクを招くことがあります。そうしたトラブルを防ぐためにも、個人M&Aについては必ず専門家へ相談することが大切です。
中には買収先の企業が借金を抱えている場合などもありますので、個人M&Aは専門家を通して綿密に行わなければなりません。個人M&Aを成功させるには、専門家への相談が必要不可欠といえるでしょう。
M&Aマッチングサイトの利用
近年では、M&Aマッチングサイトなども充実してきており、こうしたインターネットサービスを利用してM&Aを行う人も増えています。
M&Aマッチングサイトは事業の売り手と買い手の両者が希望する条件を登録し、その条件をもとにサイト運営のM&A仲介業者がマッチングさせてくれるもので、もちろん企業も個人も登録することが可能です。この場合もM&A仲介業者、専門家が相談に乗ってくれますので、安心できます。
DX承継くんで買い手として登録しましょう
今回は、個人によるM&A・事業承継について解説いたしました。ただし、個人で企業や事業を買収することはできるものの、その後きちんと経営ができるかは別問題です。
とはいえ、後継者不足に悩んでいる中小企業のうち、黒字企業は約半分とご説明しましたが、それらの企業は特にサラリーマンでも払える数百万円の売却額でも、事業を他者に引き継ぎたいと考えているといいます。買い手は、成功すれば役員報酬や営業利益を得られますので、中には、買収して1年で収入が倍になったという人もいます。
ただ、文中でもご説明した通り、M&Aの方法によってはリスクやトラブルが発生する場合ももちろんありますので、個人M&Aは特にお金の面、従業員の面、将来性など、多方面から検討して綿密に進めていかなければなりません。
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