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【M&Aの先輩企業に学ぶ、決断に至った理由】《第2回》余命宣告を受けた社長が決断した最期の成長戦略

本連載記事ではこれまでにM&Aを行った企業が、M&A決断に至った理由をご紹介していきます。前回の第1回連載記事では、大手家具店「ニトリ」を取り上げ、解説しました。

>>【M&Aの決断に至った理由】《第1回》ニトリが略奪してまで手にいれたかったもの

M&Aを行うには、それぞれの企業で戦略などがあるかと思いますが、特に経営者の高齢化がすすむ中小企業では「終活」としてM&Aを決断するケースも少なくありません。

第2回連載記事では、余命宣告を受けた「株式会社常陽建商」の経営者が、最期の経営戦略としてM&Aについて解説していきます。

株式会社常陽建商のM&A

株式会社常陽建商とは、茨城県日立市にある、廃材の引き取りや再生販売事業を行っている企業です。2018年1月に磐栄ホールディングス株式会社へ事業譲渡を実施し、新しいグループ会社として加わることになりました。

(参考:株式会社常陽建商との友好的M&Aについて)

しかし、事業承継を行う2年前の2016年当時、株式会社常陽建商の創業社長は、79歳という年齢でありながら、事業承継をするつもりはありませんでした。社長の奥様は将来のことも踏まえ、子供や社長に引き継ぐのであれば、そろそろ準備をしなければと焦っていたのですが、断固として「まだやれる」と譲らなかったのです。

それから1年たった2017年8月、常陽建商の社長に「癌」が見つかりました。余命は1ヶ月。

急ピッチで買い手を探し、9月には盤栄フォールディングスの社長と面談を行うことになります。そして12月19日、最終の契約が交わされた次の日、社長は家族に見守られながら永眠しました。

(出典:https://the-owner.jp/archives/2264)

M&Aの決断に至った理由は

日本における中小企業経営者の平均年齢は年々高齢化してきており、2017年時点で69.3歳であるとされています。(出典:中小企業の経営者の高齢化と事業承継)

日本人の平均寿命は84歳ですので、現役で働くことができる年齢として考えれば、中小企業は高齢化による深刻な「後継者不足」に悩んでいるといっても過言ではありません。経営者ご本人の意思で、「一生涯経営者として経営をつづけたい」としている方もいらっしゃるかもしれませんが、「後継者がおらず、やむなく経営を続けている」という方もいらっしゃるでしょう。

そうした意味では、現在経営者の高齢化や後継者不足に悩んでいる企業は、特に余命宣告を受けた経営者がスピードM&Aを決断した理由を確認しておきたいところです。

余命宣告を受けていた

1つ、常陽建商の社長がM&Aを決断した理由として大きな部分は「余命宣告を受けていた」という点です。先述にもあるように、そもそも79歳の時点で親族内承継をはじめ&Aを行う予定はありませんでした。

しかし、余命宣告を受けたことで、第三者に経営を譲渡し、企業として存続する道を選んだのです。

従業員を守りたい

また、自身の体に万が一最悪なことが起こってしまっても、第三者に経営を譲渡することで「従業員の雇用を維持できる」という点も大きな決断点でした。

中小企業をはじめ、65歳以上の高齢者が経営を続けている企業では経営者が経営をつづけたいという意思があるほか、リタイアしたくても「従業員の雇用が心配でやめられない」という方もいらっしゃいます。

M&A出で第三者に経営を譲渡すれば、そのまま企業として存続していくことができますので、従業員の雇用も維持できます。

経営体制の確立

経営体制の確立とは、事業内部の経営環境を整備することです。

簡単に言えば、①サービス②組織、職員③財務の3つの基盤に対して、提供するサービスの維持をしつつ、内部の体制や仕組みを整えることを指します。

事実上、社長がリタイアするにあたり、第三者企業の傘下に入ることで、経営体制の確立を行うこともM&A実施の決断点となったでしょう。

グループ連携

中小企業でも、他企業の傘下に入り、グループ企業となることでグループ内で連携し、ノウハウを共有することができます。

盤栄ホールディングスは、グループ会社を含め、総合物流企業として効率的な物品の配送を行っている企業です。独自の配送ネットワークを強味とし、迅速にモノの運搬や保管をしています。常陽建商は、盤栄ホールディングスとM&Aを行い、その傘下に入ったことで、配送ネットワークの拡大や新たな物流サービスの展開に着手できました。

余命1ヶ月の状態でのM&Aクロージング

M&Aをはじめ、事業承継はスムーズに契約が進んでも、半年から1年の期間をかけて契約締結に至るのが一般的です。

しかし、常陽建商がM&Aに着手したのは、「余命1ヶ月」と宣告を受けてからのこと。もしも最終契約の締結前に社長がご逝去されたとすれば、今後家族や既存従業員と相続の件でトラブルを招いたり、第三者機関を入れなければ収集が付かない事態になっていたかもしれません。

では、どのようにしてスピーディーに契約締結まで至ったのでしょうか。

面談から最終締結までの流れ

8月に余命宣告を受けてから、M&Aを決意し、

①2017年9月6日:買い手受託。
②9月16日:トップ面談
③9月22日:条件提示
④11月6日:スキーム決定
⑤11月21日:基本合意書の締結
⑥12月19日:クロージング条件にある合意書を締結
⑦12月20日:社長ご逝去
⑧2018年1月10日:社員へ発表

常陽建商社長と盤栄ホールディングス社長が初めて面談をしたのは、2017年9月のことです。11月中にM&Aに必要なプロセスをすべて最短で行い、12月19日にクロージング条件を満たすことができました。

信頼できる企業との出会い

9月にトップ面談を実施した時点で、盤栄ホールディングスは常陽建商に対し興味を持っていたといいます。そしてトップ面談の時に初対面でありながら「任せてください」と伝えました。

限られた時間で行われたM&Aですが、スムーズにM&Aプロセスを進めることができたのは、常陽建商が盤栄ホールディングスという信頼できる企業に出会うことができたことが大きなポイントといえるでしょう。

M&Aは基本的に双方の合意によって行われるものです。売り手企業の求めるところを買い手企業が理解し、買い手企業の求めるところを売り手企業が理解しなければ、スムーズにM&Aを進めることはできません。

一刻も早く信頼できる企業に事業を譲渡し、社員や家族を守りたいという社長の気持ちが、買い手である盤栄ホールディングスにも伝わったから、スピーディーにM&Aが成功したといっても過言ではないでしょう。

盤栄ホールディングスのその後

盤栄フォールディングスは、2018年に常陽建商を買収して以降も、毎年多くのM&Aを行って事業拡大を続けています。

2021年ではすでに3社との有効的M&Aを発表しているほどです。当時常陽建商で働いていた従業員も、盤栄ホールディングスとM&Aをしたことで、安定した雇用を手にすることができているでしょう。

http://www.ban-ei.co.jp/information-list/

まとめ

本記事では、「常陽建商」の社長が余命宣告を受けて行ったスピードM&Aに注目し、解説いたしました。

M&Aは、事業拡大やリタイア時の事業承継というイメージをお持ちの方も多いです。しかし、年々経営者が高齢化していく日本において、一生涯経営者でいることのリスクには従業員も経営者の家族もそれぞれ目を向けていかなければならないといえるでしょう。

もし、常陽建商の社長が、M&Aを行わずに最期を迎えていたとしたら、残された家族、従業員は今頃どのようになっていたでしょうか。

「大切な人を守るためのM&A」もまた、経営者が考えるべき「経営戦略」の一つです。

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