事業譲渡では労働契約は原則継承されない!売り手が覚えておくべき事業譲渡における従業員雇用の知識

事業譲渡とは、中小企業のM&Aでよく用いられるスキームですが、従業員が移動を拒否するなど従業員の雇用をめぐって問題になることが多い手法でもあります。

また、『事業譲渡では従業員も一緒に譲渡するのか』『従業員が事業譲渡に同意しない場合どうすれば良いのか』など、様々な疑問もあるでしょう。

売り手の企業は、買い手の企業とのM&Aをスムーズに進めるためにも、事業譲渡における従業員雇用については詳しく知識を得ておかなければなりません。

そこで本記事では売り手企業向けに、事業譲渡における従業員の取り扱いについて詳しくご説明してまいります。事業譲渡を検討している方、従業員の今後の雇用が心配でM&Aに踏み込めなかったという方は、本記事にてリスク対応策まで解説しておりますので是非参考にしてください。

会社売却後、勤めていた社員はどうなる??

事業譲渡の流れと従業員の雇用に関するポイント

そもそも事業譲渡とは、会社内の特定の事業を自社以外の他社に売却する手法になります。売買の対価としては現金が一般的で、特に中小企業では現経営者が後継者探しや老後の資金調達などの目的で用いられることが多いです。

ただ、事業譲渡は会社の中の特定の事業を譲渡するため、雇用に関する手続きはもちろんその他の手続きも非常に複雑です。

まずは、事業譲渡の流れと、従業員の雇用について下記に分かりやすくまとめました。

事業譲渡の解説と詳しい手続きについて徹底解説!

事業譲渡の流れ

事業譲渡の流れは以下の通りです。

①専門家と相談しながら買い手企業と情報交換

お問い合わせはこちらまで

②買い手の企業の経営者と面談

③基本合意の締結

④デューデリジェンスを行う

デューデリジェンスの調査方法や意味とは?

⑤最終合意

⑥事業譲渡契約締結

⑦株主総会を開く

⑧買い手企業と従業員雇用の契約締結

 

次の項目にて事業譲渡の流れの中で発生する従業員取り扱いのポイントについて解説していきます。

事業譲渡手続きの中の従業員取り扱いのポイント

基本的に事業譲渡において、従業員の契約を移動させる場合は、従業員からの個別の同意が必要です。ただし、④のデューデリジェンスを行う前など契約締結が不確実な段階で従業員に周知してしまいますと、不安にさせたりすることになってしまいますので、⑥の事業譲渡契約締結が問題なく行われてから周知を行う必要があります。

とはいえ、従業員からしてみると締結が決まった後に知らされることになるわけですので、不安や不信感を抱かせてしまうことにもなりかねません。そのような不安や不信感からくる反発などを防ぐためにも、買い手との③基本合意の締結の時点でしっかりと従業員に関する取り決めを行っておくことが大切です。

事業譲渡における従業員の取り扱い2パターン

先ほど、事業譲渡手続きの中の従業員取り扱いポイントの解説で、事業譲渡で従業員の契約を買い手の会社に移動させる場合は『従業員からの個別の同意が必要』とお伝えしました。

それは、事業譲渡においては、事業の譲渡とともに該当する事業に所属していた従業員も自動的に譲渡の対象になるわけではないからです。

基本的に事業譲渡における従業員の取り扱いは下記の2パターンに分類されますので下記にそれぞれ解説していきます。

①承継型

②再雇用型

①承継型

事業譲渡において従業員がそのまま承継される『承継型』は、売り手の企業と、買い手の企業と、移動に該当する従業員の3者の同意に基づいて実行されます。つまり、3者の同意おを得ることができれば、従業員は売り手の会社の労働契約がそのまま買い手の企業に承継されるということです。

逆に言えば、この3者のうちの誰かが同意しない場合は、労働契約が買い手企業に承継されることはありません

ただ、この時、該当する従業員が売り手会社に残りもせず買い手会社への移動も選択せず退職した場合は、原則として『自己都合退職』となってしまいます。それは会社としては、雇用を維持する努力が必要であるため、事業譲渡に同意しないことを理由として従業員を解雇することができないからです。

②再雇用型

一方、再雇用型とは、該当する従業員が売り手企業を退社し、その後買い手の企業に再雇用される形を指します。承継型と再雇用型の2パターンに分かれている実質的な意味としては、再雇用型の場合、買い手側が従業員の雇用を自由に変更できるからです。

例えば、売り手の企業での労働条件が9:00始業であるのにたいして、買い手の企業が10:00始業であったとします。そうすると、承継型では労働条件がそのまま引き継がれる形になりますので、既存の従業員と事業譲渡で入社した社員の始業時間が違うと不都合なケースがあるのです。

承継型で不都合な場合に、再雇用型を用いることで買い手側が柔軟に従業員への待遇の取り決めを行うことができるようになります。

このように、承継型、再雇用型いずれも、同意が必要であったり、再雇用の契約が必要であったりなど一筋縄では従業員の承継ができないのが事業譲渡の特徴です。

労働が引き継がれないことによる影響とリスク対応策

上記に、承継型と再雇用型の2パターンの従業員雇用契約について解説しましたが、労働条件を売り手の企業に合わせるためにも、再雇用型を選択する買い手企業が多いです。

しかし、労働契約が引き継がれないことによるリスクなどもありますので、売り手の企業は自社の従業員を守るためにもしっかりとリスクヘッジをしておかなければなりません。

ここからは、事業譲渡で労働が引き継がれないことによる影響と、リスク対応策について解説していきます。

労働時間が変更になることによる従業員の不満

まず、事業譲渡で労働契約が引き継がれず、労働時間が変更になった場合、これまでの労働時間で予定を組んでいたものがうまくいかなくなり不満を勃発させることになってしまいます。例えば、子供の送り迎え、家事など、時間の変更は様々な家庭事情に影響してしまうでしょう。

このように従業員が、労働時間の変更に懸念点があり移動に同意できない場合、会社側としては雇用を維持するため別事業部への移動をさせたり、承継型での移動ができないかなど従業員にとって最も良い形をとることが大切です。

勤務地が変更になることによる居住地の移動

また、事業譲渡に該当する従業員は、会社自体を移動することになりますので、勤務地が変わってしまう可能性があります。これまで勤めていた会社に近いマンションを購入した、一軒家を購入したという場合、移動先の会社までの通勤時間が長くなれば、従業員から不満が出てくる可能性もあるでしょう。

この場合は、承継型での事業譲渡を行っても勤務地が変更になることには変わりありませんので、自社の別事業への移動を行うしかないでしょう。従業員の意向をしっかり聞き入れ、事業譲渡への不同意で退社に追い込まないよう気を付けなければなりません。

勤続年数は変わる?

また、勤続年数については、買い手の企業が、売り手企業からの勤続年数を通算するかしないか、買い手の企業の判断にゆだねられます。ですので、承継型であっても勤続年数を通算しないケースもあれば、再雇用型でも勤続年数を通算とするケースもあるのです。

特に、買い手の企業が勤続年数によって給与が上がったり、ボーナスが変わったりする場合は、従業員が不当に不利な状況に陥ってしまう可能性もあります。それだけでなく、年金や、失業保険、有給休暇の内容にも影響を与える可能性があるため、非常に重要であり、売り手の企業は買い手企業との契約の段階で特に細心の注意を払わなければならない事項とも言えます。

退職金についてはどうなるのか

また、買い手企業に移動した従業員の退職金についても、労働契約がひきつがれないことによって該当する従業員のライフプランが変更になってしまう可能性があります。

例えば、売り手の企業に40年務めた場合退職金が3000万円ほどもらえるので毎月の貯金は〇万円にしておけば、老後は困ることはないと考えていた従業員がいるとしましょう。従業員のほとんどは働きながらライフプランを設計しているケースが多いので、事業譲渡で移動になった買い手の企業では退職金は無しですというのは通用しないわけです。

従業員の退職金のリスクヘッジ方法としては下記の2パターンがあげられます。

①買い手企業が売り手企業から退職金債務を引継ぎ、従業員が退職する際に買い手企業が支払う

②事業譲渡の際に売り手企業で従業員の退職金を清算し、買い手企業でも新たな退職金規定に従う

退職金については、譲渡金額からその分を差し引いたり、事前に清算しておいたりすることでしっかりと従業員に退職金を支払うことはできます。要は、事業譲渡の契約の段階で、買い手企業と売り手企業がしっかり従業員の雇用から退職までしっかりと交渉しておく必要があるということです。

まとめ

本記事では、売り手企業が知識としてしっかりと覚えておかなければならない、事業譲渡における従業員の雇用契約等について解説いたしました。

売り手の経営者は事業譲渡で経営を無事リタイアしたとしても、該当する従業員にとっては、会社が変更になったり、経営陣が変更になったりすることによる不安や不信感は少なからず出てくるものです。これまで一緒に働いてきた従業員に、事業譲渡を行ったことによって不利な状況に立たせてしまうことがないよう、事業譲渡をしようとしている経営者はしっかりと買い手企業と従業員の雇用について話し合いを重ねなければなりません。

そして、事業譲渡などM&Aを行う際は専門家への相談は必須です。個人でM&Aを行ってしまいますと、従業員の雇用等はもちろん、その他の面でも不利な点に気づかなかったりする場合がありますので、専門家の知識を得ながら慎重に進めていきましょう。

DX承継くんでも下記のお問合せ窓口からご相談を受け付けております。事業譲渡で会社を売りたいと考えている方は是非お気軽にご相談ください。

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