自社株買いは株価にどんな影響を与える?メリットデメリットから計算方法までを解説

先日政府より、『自社株買いによるM&Aは税優遇をする方針』との発表があり、来年度の税制改正では同案が可決される見込みです。これにより、『自社株買い』に対しての注目が集まったわけですが、そもそも自社株買いが一体何なのか分からないという方も増えたでのではないでしょうか。
そこで本記事では、自社株買いとはいったい何なのかというところはもちろん、自社株買いが株価に与える影響や、メリット、デメリット、自社株買いの計算方法までを徹底解説してまいります。
目次
自社株買いとは
自社株買いとは簡単に説明しますと、企業が市場に発行した株式をその企業が市場から買い戻すことをさします。
自社株買いの主な目的としては
①株主へ還元するため
②ストックオプション
③株価を上昇させるため
④収益指標(ROE)を引き上げて投資家の注目を集めるため
などがあげられます。
自社株買いで株価は上がる?下がる?
目的として、『株主への還元』や『株価上昇』などをあげた通り、基本的に自社株買いを行うと発行済み株式数が減少するため1株当たりの価値が上昇することになります。つまり、株主がそれぞれ保有している株価が上がるのはもちろん、市場の株価も上昇することに繋がるわけです。
自社株買いが行われるケース
ではどんな時に自社株買いが行われるのかというと、
①株価をあげたいとき
②業績悪化時
③株式の希薄化をさけるため
④事業承継時の納税資金調達をしたいとき
などです。
先ほどにも、自社株買いをすると当該企業の株価は上がると申し上げました。ゆえに、株価をあげたいときや、業績悪化時に株主へのお詫びをして間接的に株価を上昇させたいときに利用することができます。
また、株式会社の資金調達方法で最も利用されるのは株式の発行ですが、当然市場に株式が増えると、1株当たりの価値は下がってしまうので、株価低下につながってしまうわけです。そのため、市場に流通している株式を企業がそれぞれ自社で回収することで、株価低下を防ぐことにつなげられます。
それだけでなく、事業承継時に必要になる、所得税や消費税などの納税資金を自社株買いで調達する企業もあります。
自社株買いの買い付け内容
自社株買いの買い付け内容は、株主総会と取締役会を開き、その中で決定されます。具体的には、
①取得する株式の数
②買い付けを行う期間
③取得方法
を決定するのが一般的です。
期間を決める理由としては、一気に決定した株式数すべてを買い付けてしまうと、株価の急激な変動が起こってしまうからです。一定期間をあけながら断続的に買い付けを行っていくことで、結果的に株価の上昇が見込めるでしょう。
自社株買いのメリット
自社株買いのメリットは、株価上昇だけではありません。その他自社株買いのメリットとして考えられる次項を上げ、解説していきます。
株価上昇と株価の下支えができる
まずは、株価上昇はもちろん、株価の下支えができるという点です。自社株買いを行ったことで高収益性をアピールすることにつながり、投資家から注目を集める可能性があります。これは結果的に投資家の継続的な買いに繋がる可能性もあり、株価の下支えが期待できるということです。
株主や投資家にアピールできる
上記はいわゆる、株主や投資家へのアピールができるというところにも繋がり、企業価値を高めるところに繋がるというメリットもあります。
というのも、自社株買いをすれば市場に発行された株式の数が減少しますので、企業利益が大幅に減るなどしない限り市場における1株当たりの株価は上昇していくことになります。株主側からすれば、1株当たりの利益配分がふえることになるため間接的に『当該企業は株主の利益を考えている企業だ』という印象を持たせることができるわけです。
それが今後の断続的な買いに繋がる可能性もあるかもしれません。
ストックオプションの確保
ストックオプションとは、将来的な収益確保、いわゆるここでいう発行時に決めた価格で自社の株を購入できる権利を得ることです。これがどういうことかというと、ストックオプションを与えられた従業員がいたとして、その従業員らは、自社の株価が将来的に上がったときに売却をすれば利益を得ることにつながります。
ストックオプションを与えられた従業員は、自社の株価を少しでも上昇させられるよう、業務に積極的に取り組むでしょう。そうしたことから、自然と業績が上がっていくことも期待でき、結果的にストックオプションを確保したことで従業員のみならず企業に大きなメリットをもたらす可能性があります。
敵対的買収を防ぐことができる
敵対的買収とは、企業におけるM&Aなどの売買活動において、それを一方的もしくは敵対的に行うことを指します。
最近の例でいえば、大戸屋とコロワイドの例もあげられますし、半沢直樹のストーリーもまた、この『敵対的買収』がポイントとなっていました。敵対的買収を仕掛けられた企業は、当然買収に反対しているわけですから、買収をされないよう何らかの策を取らなければなりません。
それにはいくつかの策がありますが、そのひとつとして、自社株買いがあげられます。市場にある株式を自社で買い占めることによって、他企業に買収されないよう対策を取ることができるということです。
自社株買いのデメリット
一方、自社株買いには以下のようなデメリットもあげられます。
自社の資本比率低下
自社株買いとは、自社の資産を使って市場の株式を買い占めることですので、企業内の自己資産比率の低下を招いてしまいます。
自己資産比率の目安としては企業の業種にもよりますが大体20%程度であると言われており、自社株買いによってこの比率を下回ってしまうと、財務体質が悪化しているとみられ、投資家や株主が興味を示さなくなる可能性があります。
計画不足による株価低下
自社株買いは、もともとは自社の株式であるし、株式上昇が見込める可能性が高いからといって、無計画に実行してしまうと、逆に株価低下を招いてしまう可能性もあるので注意が必要です。というのも、資金を使って自社株買いをしたことで、今後の成長性を阻止してしまったり、処分のリスクを考えていなかったりする場合がこれに当てはまります。
自社株買いに最大限のメリットを発生させるためには綿密な計画、プロセスが必要です。
自社株買いで株価が上昇する理由は?
先述に、『自社株買いを行うことで株価の上昇が期待できる』と申し上げました。では具体的にはどのような理由で株価が上昇するのでしょうか。考えられる理由を3つ挙げ、解説していきます。
発行済株式数が減るため一人当たりの配当が増える
1つは、出回っている株式を自社で回収するため、発行済み株式数が減ります。そのため、一人当たりの配当が増え、結果的に株価の上昇が見込めるのです。1つ当たりの単価が上昇するとお考えいただければわかりやすいでしょう。
市場に流通する株式が減るため
また、単純に市場に流通している株式が減ることで、需要と供給の関係で株価が上がるからです。これは、野菜などの物価などでも同じことが言えるでしょう。夏の野菜は夏によく流通するので、安価に購入することができますが、夏の野菜を冬にいただこうとすれば、そもそもの流通数が少ないので、需要が高ければ物価も上がりますよね。それと同様に、需要と供給のバランスが変動すれば、それに伴って物価も変動するというわけです。
株式の場合は、一般の投資家が購入できる株数は限られているため、企業の自社株買いにより市場に出回る株式数が減ることで、株価が上昇するということになります。
株価が割安だと買いが進むため
自社株買いは、企業が『自社の株価が安い』というメッセージを持っている可能性があります。それは、そもそも企業が自社株買いを行う目的が『株価を上昇させるため』という目的が主だからです。
したがって、自社株買いをする企業は、株価が安いと認知されることになります。そうすると、投資家たちが安いうちに株を買っておこうと考え、株を買う動きが増えるでしょう。
そうすることで、結果的に、市場に出回る株式は減るのに、需要が爆発し、株価が上昇するということが起こるのです。
自社株買いの計算方法
では最後に自社株買いの計算方法をご紹介していきましょう。
【上場企業の自社株買いの場合】
上場企業が自社株買いを行う場合は、証券取引の他、TOB(株式公開買い付け)を行うのが一般的です。TOBについては下記の記事に詳しく解説をしておりますので、ご覧ください。
証券取引を通して株式を購入する場合は時価で、TOBで買い付けを行う場合は、時価に30%を上乗せした価額で買い付けを行っていきます。
【非上場企業が自社株買いを行う場合】
自社株買いは基本的に上場企業が市場に出ている株式を買い集めるために行う方法ですが、非上場企業が行う場合もあります。ただし非上場企業の場合は市場で取引がされておりませんので、株主と直接価額交渉をして取得をしなければなりません。
その方法は下記の2つの方法があります。
①類似業種比準価額方式
②純資産価額方式
①の類似業種比準価額方式は、業種や規模が類似する企業と比較して株価を評価する方法、②の純資産価額方式は、仮に会社が解散した場合に1株あたりどのくらいの株価になるかというのを計算する方法です。
基本的には、非上場企業の中でも規模の大きい会社大会社の場合は①の方式、紹介者の場合は②の方式が適用されます。中会社の場合は、更に大中小に区分され、①と②の方式比率で組み合わせて評価額を算定されることになります。
なお、大会社や中会社でも、①の方法のほうが評価額が低い場合は、②を評価額とすることも可能です。
自社株買いの事例
自社株買いの事例について解説していきましょう。
ソフトバンクの事例
ソフトバンクは2019年2月6日に、上限6,000億円の自社株買いを公表しました。それまでの時価総額が9兆円であったことで、割安であるという見解から自社株買いに踏み切ったとのことです。
先述にも申し上げた通り、自社株買いは適正な株価に戻すことができるという利点があります。ソフトバンクは自社株買いで取得した株式について、適正な株価を目指すことができるよう、株式はすべて消却する方針です。
NTTドコモ
NTTドコモは2019年4月26日、上限3,000億円の自社株買いを公表しました。ドコモはこれまでにも自社株買いをおこなっており、目的はいずれも『株価上昇による株主への還元』です。
同自社株買いを公表した初日は2420円だった株価は、上昇し、2019年12月には3038円まで伸ばしています。株価を上昇させたいときに利用できる手法でもあるため、株価が低迷傾向にある企業は、自社株買いを行ってみてもよいかもしれません。
ソニー
ソニーは2019年2月、こちらもドコモ同様に株主還元を目的とした自社株買いを行いました。
以下、日経新聞からの抜粋です。
ソニーは8日、1000億円を上限とする自社株買いを実施すると発表した。
2018年末から株価が低迷していることもあり、株主還元を強化する。
取得する株数の上限は3000万株で自己株式を除く発行済み株式数の2.36%に相当する。
8日の東京株式市場でソニーの株価は一時、前日比7%高まで上昇。終値は193円(4%)高の4906円だった。
自社株買いは2004年2月以来15年ぶりで、前回は旧ソニー・コンピュータエンタテインメントの株主に自社株を交付するためと、単元未満の株式を保有する株主からの買い増し請求に応じたものだった。
引用:(2019年2月8日の日経新聞から抜粋)
同報道を見てもわかるように、ソニーは2004年にも自社株買いを実施しています。ドコモやソフトバンク、ソニーなど大企業の上場企業では頻繁に行われる手法であるともいえるでしょう。
まとめ
本記事では、自社株買いにおける基本事項について解説いたしました。今後、自社株買いを行う企業については一定の税優遇がされる見込みであることもあり、自社株買いを行う企業は増えてくるかもしれません。
ただし、自社株買いを行えば必ずしも株価上昇やその他メリットを発生させられるというわけではなく、計画やプロセスを明確化しておかなければ全く逆の効果を発生させることに繋がる可能性もあるでしょう。
また、企業に合わせた計算方法なども吟味する必要がありますので、自社株買いを行われる際は、是非専門アドバイザーに相談するようにしてください。
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